2018年12月4日:記者会見 開催

 

 現職教員の斉藤ひでみ先生が呼びかけた「給特法改正を求める署名」を,斉藤先生ならびに「全国過労死を考える家族の会」と共同で,文部科学省と厚生労働省に提出し,合わせてそれぞれの記者クラブにて会見を開催しました。


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※以下,動画は10分前後のものが計9本あります。文科省記者クラブの会見が7本,厚労省記者クラブの会見が2本です。動画に合わせて,発言内容を文字に起こしました(一部編集)ので,ご参照ください。

■会見動画 @文部科学省記者クラブ

【会見参加者】

「学校の働き方を考える教育学者の会」呼びかけ人・賛同人

 ・藤田 英典(共栄大学・教授)

 ・佐藤  学 (学習院大学・教授)

 ・広田 照幸(日本大学・教授)

 ・内田  良 (名古屋大学・准教授)

「給特法改正を求める署名」呼びかけ人

 ・斉藤 ひでみ(現職教員)

「全国過労死を考える家族の会」会員

 ・工藤 祥子(過労死遺族)

 ・山口 俊哉(過労死遺族)

 

文科省会見01:「学校の働き方を考える教育学者の会」の概要ならびに呼びかけ人による意見表明

 “定額働かせ放題を根本から改善すべき”

【藤田】

 本会は,11月27日に設立されました。

 呼びかけ人は,市川昭午,佐藤学,広田照幸,そして私,藤田英典の4名です。

 賛同人は,本日(12/4)現在で32名に達しております。賛同人からは本日,内田良が事務局担当として,司会を兼ねて参加しています。

 設立の経緯は,今年10月~11月にかけて給特法の改正に向けて,広田と内田,現職教員の斉藤先生から「要請行動を起こしたい」と連絡がありました。それを受けて本日,本会の設立と,斉藤先生との共同記者会見の開催にたどり着きました。

 私たちは,「教員の長時間労働問題の根本的解決に向けた緊急提言」を発表しています。

 第一が,給特法の見直し。教員の時間外労働を「自発的な業務」とみなす給特法については,その抜本的な改正が必要です。答申には,給特法改正のための方策や工程を明記すべきです。 

 第二が,年単位の変形労働時間制の導入見送り。現在検討されている年単位の変形労働時間制は,長時間労働の縮減に資するものではありません。また教員は年中繁忙期といってよい状況です。年単位の変形労働時間制の導入は,見送るべきです。

 第三が,教員定数の増加。教員の負担軽減のために,教員定数(教職員定数)を大幅に増加させるべきです。

 今後の活動としては,中教審の審議はまもなく終わると思われますが,今後も,行政に働きかけつづけるだけでなく,教育関連学会として学者の側でさまざまな企画を考えていく予定です。

 

【佐藤】

 多くの教員が過労死ラインを超えて働いています。

 1971年の給特法,定額働かせ放題の状況を根本から改善しない限りは,過労の問題は改善しません。

 このようななか,日本の教育の質は,非常に危惧される状態を迎えています。小学校教員の採用試験の倍率は,1.3倍程度にまで低くなっています。教員採用試験の倍率は4倍がデッドラインで,いまはそれを下回っています。一刻も早く教員の待遇や処遇を改善しないと,日本の教育の将来はないと考えています。

 世界を見渡しても,日本のこのような事態というのは,ありえません。労働時間をきちんと守って,質の高い教育を保障できる条件を築かない限り,日本の教育の未来はありません。

 

【広田】

 2点申し上げたいことがあります。

 一つに,1971年に給特法が制定されましたけど,その前に国会で当時の剱木亨弘文部大臣が,教員の超過勤務に手当をつけるということで予算要求をしていたんです。それが当時のいろんな情勢のなかで,超過勤務手当ではなくて教職調整額というかたちで決着をしました。

 それが今日の問題にまで至っているんです。これほど長時間労働が拡がっているとするならば,やはり適切な仕組みにつくりなおすという議論をぜひ始めていただきたいと思っています。

 もう一つが,1985年に臨時教育審議会が個性重視の原則という,新しい教育改革の方針を出しました。そこから,一人ひとりの子どもにきちんと目が届く教育をということで改革が進んできました。

 そのときに,教員を増やすなどの考え方への転換を経ないまま,個別に目が届く教育というものを現場に求めてきましたから,結果として現場はどんどんとやるべきことが増えて,大変な状況になっているということです。一人一人の子どもに目を向けるために,それに見合った仕組みをつくっていかなければなりません。

 

【内田】

 事務局より,給特法と変形労働時間制の問題点について。詳しくは,こちら

 

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文科省会見02:現職教員の訴え

授業準備もままならない「せざるを得ない山のような業務」

【斉藤】

  私は,2018年2月28日,「給特法を改正して下さい」という署名を開始しました。

 先ほど,9ヶ月かけて集めた3万2,550筆の署名を文部科学大臣宛てに提出しました。この後,厚生労働大臣宛てにも提出します。

 

 この署名を通じて訴えることは,5つです。

①せざるを得ない残業は残業と認めてください

②残業には残業代等の対価を支払ってください

③残業時間に上限を設けてください

④部活動顧問の選択権を保障してください

⑤残業ゼロの職場を管理職の責任で実現してください

 

 私が署名を開始した,理由と目的について話します。

 私が署名を開始した理由は,中教審の審議を見るにつけ,「現場の思いを全く汲んでくれていない」と感じたからです。

 現場の教員がどこにやるせなさを感じるかと言うと,裁量のない,せざるを得ない業務が山ほどあります。18,19,20時と…定時を過ぎて行うそれらは「教員が好きで働いている」と見なされています。ここに,全く納得がいきません。

 こういった思いは,私だけではありません。10月に発表された連合総研の調査によると,86%もの教員がこのような法改正を望んでいるという結果が出されていました。

 

 では,残業代が支払われたらそれで良いのかと言うと,もちろんそうではありません。

 私がこの署名を開始した目的は,ブラック残業の「抑制」にあります。残業を抑制するためには,まずは,残業を残業と認める。ここがスタート地点である訳です。

 このような法改正が行われなければ,管理職の意識が変わりません。そうした中で勤務の上限ガイドラインを出したとしても,それは「自主的活動もほどほどにして下さいね」という意味にしかならないのです。

 

 私は,授業を通じて生徒を育てたいと思い,教員になりました。

 しかし,授業準備もままならない「せざるを得ない山のような業務」があります。より良い授業を準備しようとすると,残り少ない私生活の時間を削るしかありません。

 これは,無理です。

 

 結局,給特法によって労基法の一部が適用除外され,それによって,管理側が教員に働かせ放題を強いることができるようになった。これが間違いであったと考えています。

 教職は,もはや職業としての体をなしていません。

 どうか,公立学校教員にも,労基法を適用してもらいたい。

 私は,100年前の労働者のような思いです。

 労基法を,全面適用して頂きたい。

 これが私の思いです。

 

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文科省会見03:過労死遺族の訴え

“夫は過労死した 過労死ラインとは本当に人が死ぬレベル”

【工藤】

 11年前に,中学校教師の夫が,くも膜下出血で他界しました。

 給特法のもとで時間管理がされていなかったなかで,公務災害の申請をしたところ,私たちが主張したよりも6ヶ月間で328時間の時間外労働時間が,証明できませんでした。「勝手にやった仕事」とみなされました。時間を管理していないことによって,過労が認められないということは,あってはならないと思っています。

 夫は過労死しました。過労死ラインという言葉がありますが,これは本当に人が死ぬレベルのラインです。このようなことを強く訴えながら,教員の働き方が改善されることを求めています。

 

【山口】

 私の妻は,石川県内の小学校で28 年教員をしておりました。2016年の1月20日に学校の会議中に倒れ,2月3日に,くも膜下出血で他界しました。公務災害の申請中ですが,いったん「公務外」との判断が出ております。今後は再審査請求というかたちで,頑張っていく予定です。

 今年2月に文部科学省は「学校における働き方改革に関する通知」を発令し,石川県でも3月に「教職員の多忙化改善に向けた取組方針」を定め,各学校における業務改善の取り組みを進めていますが,しかし残念ながら,学校現場はほとんど変わっていません。

 働き方に関するガイドラインを出したところで,学校現場は変わらないと思います。しっかりと給特法を改正して,法律で何らかの規制をかける必要があります。

 

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文科省会見04:質疑(1) 変形労働時間制を取り入れる是非は?

“教育にもっとお金をかけるという決意を”

【記者】

 中教審の議論では,一年単位の変形労働時間制は,現在の働き方に当てはめて意義があるということではなくて,勤務時間が縮減した場合に選択的に導入できるということだと理解しているのですが,その点はどのようにお考えでしょうか。

 

【広田】

 中教審では,抜本的な有効策は提案されていない。とりあえずやれることを列挙してそれを当面の方針とすることで,勤務時間削減の姿勢を見せている。それで変形労働時間制を取り入れても,展望が見えません。

 

【斉藤】

 夏休みの業務を削減した上で変形労働時間制を導入するということになっているが,夏休みが来るまでは午後6時まで勤務しなさいとなると,いま以上に,やらなければならない業務が増えるのではないかという危惧をもっています。

 勤務時間が午後5時までのとき,会議を4時半に設定して,会議は当然ながら5時半~6時までかかってしまいます。勤務時間が午後6時までとなると,たとえば5時半に会議が開始されて,終了はさらに遅くなることもありえます。また,部活動が教員の職務だという考え方も強まる可能性があります。こうして,夏休みが来る前に教員がかなり疲弊してしまうという状況があると思います。

 さらには,夏休みに年休を取得するという機会が,まったく奪われてしまいます。年休取得の促進は,働き方改革全体の流れです。

 そして,中教審の議論では,夏休みに閉庁日を設け変形労働時間制が可能だという意見がありました。働き方改革のなかで,夏休みに余裕をもってもらおうというのであれば,変形労働時間制を設けずとも,長期の閉庁日を設けて,夏休みに休んでもらうことは可能です。変形労働時間制によって働き方改革が進んで教員が楽になるという考え方自体が,まちがっています。

 

【藤田】

 かつて教員は,夏休みに,学外を含めて研修に参加するということをずいぶんとやっていたのですが,近年はそれが難しくなってきています。

 本来であれば夏休みに,閉庁日を設けたり,自主研修を15日間くらいとったりして,教員の資質能力を向上させる,教材を研究する,英気を養うといった時間を確保しなければいけないと思うんです。

 変形労働時間制というのは,お金をかけずに問題を解決しようという方法です。教職員定数法を改善しないのも,お金がかかるからです。でもたとえば自治体の予算で教員を加配すると,それだけでも学校にゆとりが生み出されます。教育にもっとお金をかけるという決意をしなければなりません。

 

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文科省会見05:質疑(2) 教育学者は何をしてきたのか?

“先生たちを追い詰めてきた

【記者】

 教師の献身性によって長時間労働が助長されたという見方がありますが,教育学者がそこに荷担してしまったという側面はあるのでしょうか。そうだとすれば,今後はそこがどう変わっていくことになるのでしょうか。

 

【広田】

 おっしゃるとおりで,教育学者は,教員の皆さんに「教育とはこんなにすばらしいものなのだから,頑張ってください」と言って,追い詰めてきた部分があります。そこに,個人的には責任を感じています。

 1990年代までは,いかに教育をよくするかという議論をやってきたわけですけれども,2000年代に入ってからは,教育改革の主題として教員の働き方に注目が集まるようになり,気がついてみると,こんなにも厳しい状況になっていた。「子どもへの愛情」とか「教育が好きだ」とか,そういう意識で支えられてきた学校現場に,このままじゃいけないんだということを,教育学者として発言することが大事な時代になってきたのだと思っています。

 

【記者】

 教育学者の皆さんにとって,教育学ができる役割というのは何でしょうか。そして,過労死遺族の方にお伺いしたいのですが,変形労働時間制が導入された場合,それが過労死の問題にどのような影響が出ると考えられるでしょうか。

 

【広田】

 教育学者が教員に,無定量で無限定な努力を強いてきた部分があると思います。

 そして,どのような勤務の仕組みなのか,どのような権利をもっているのかということは必ずしも十分に,教員養成大学でも強調されてこなかったように思います。最近は僕は学生には,給特法というのはどういうもので,「残業手当はもらわずに残業するんだよ」と,きちんと説明するようにしています。

 他方で,教員の側でも「これまでこうだったから」といってあきらめるのではなくて,ちゃんと声をあげていただくことも必要です。その意味では,斉藤ひでみ先生のような動きがあると,とてもすばらしいことだと思います。

 

【藤田】

 さきほど,斉藤先生が仰ったことでもありますが,教員は労働者であって,労働者としての権利をしっかりと認めるということですよね。残業に労働基準法を適用するということは,きわめて重要なことです。

 それと,これもさきほど触れられたことで,コンプライアンスや説明責任の重視ということが,教育界だけでなく世の大きな流れになっていくなかで,学校現場からおおらかさが消えていったと思うんです。夏休みの研修にしても,以前は自由に取得できていました。そこにいろいろと縛りがかかるようになり,許可をもらわなければならなくなった地域が出てきて,いまでは基本的に出勤日だ,と。 教職にはミッションと誇りがなければ,やっていけない仕事です。それを養う基盤が崩れてきていると私は思います。

 「私は給与にこだわっているわけではない」というのは,もちろんもっともなことなのですが,給与というのはやはり重要です。それを認めるということが,「大変な仕事」ということの一つの証ですから,私は労働者として基本的な扱いをしっかりと整備していくことが大事です。

 

【佐藤】

 なぜ,こんなに現場が忙しくなったのか。なぜ,手が付けられていないのか。学校の経営や組織のあり方で解決できる部分もある程度あります。

 ところが,勤務時間数はすごく延びているなかで,授業準備,研修,教材研究といった教師の専門性においてコアとなる部分にかける時間は減少していて,それ以外の雑務が増えていきました。アカウンタビリティ施策という,ひとつ一つ書類を残していくといったことも,多忙化をもたらしています。

 構造的な解決を求めるためには,給特法がもたらしてきたそうした実態を,明らかにすることが重要です。教師の仕事を統合しつつ,有効なものにしていくという議論を,行政レベル,学校レベルでつくりだしていくことが第一歩だと思っています。

 

【工藤】

 過労死遺族の立場から,一年単位の変形労働時間制について感じていることは,これまで教師の過労死の事例に関わってきたなかで,私の夫は6月に他界したのですが,6月と7月で,過労死事案17件のうち7件が起きています。閑散期とされる夏休みの前に,7件起きているということです。

 仮に繁忙期に,業務量が1~2時間増えるとなると,夫の業務はさらに増大してしまうかもしれません。夏休みの前に,過労死等がさらに増えてしまうことを危惧しています。

 そして,定時の勤務時間が長くなるということは,見た目としては時間外労働の時間数は減り,実際には多忙になっていくことになるのではないかと思います。

 

【山口】

 変形労働時間制が入ると,6月や7月は見た目の残業時間が減りますから,公務災害と認められにくくなっていくのではないか。先生方が倒れても,「公務外」とする理由になってしまうのではないかと危惧しています。

 

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文科省会見06:質疑(3) 現場に改善は見られるのか?

“変化は感じられない

【記者】

 文部科学省が働き方改革に乗り出して,中教審の中間まとめからも一年が経過して,学校現場に何らかの変化というのは生じてきているのでしょうか。

 

【広田】

 学校現場や教育委員会から,改革の動きが始まっています。が,だからと言って,それで圧倒的に勤務時間数の削減ができたという話は聞いていません。とりあえず,いまできることをやっているということだと思います。

 

【斉藤】

 この一年の間,学校ではまったくと言っていいほど,変化は感じられません。中教審で中間まとめがあり,だから働き方改革を進めていきましょう,という資料が教育委員会から現場に降りてきます。それを管理職が,「可能な限り,6時や7時までには帰られるようにしましょう」と言うだけです。要するに,時間外労働は,個々の教員の意識を変えることによって何とかしていこうというものですから,業務が削減されたというような実感はありません。

 

【藤田】

 自治体での改革が広範に進んでいるというようなことは言えませんが,道徳の教科化,IT関連の教育,高校だと18歳選挙権に関係して社会科等の科目の対応もセンシティブになってきていて,学校現場で教師が対応すべきことはいろいろあって,さらには書類作成という手間もある。だから,変形労働時間制のような対応で済むと中教審が考えているとすれば,それでは不十分で,現実をふまえて,根本的な見直しが必要だと思います。

 

 

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▼文科省会見07:質疑(4) 少子化時代の教員定数をどう考えるべきか?

“少子化の一方で,先生方に求められる仕事が変わってきている

【記者】

 少子化の流れのなかで,教員数を減らしていくというのは,理屈としては通るけれども,それが実際にはできないのはなぜでしょうか。それと,給特法の改正を求めるという点について,給特法を具体的にどのように改正すべきとお考えでしょうか。

 

【広田】

 少子化に合わせて教員数を減らせと,財務省は主張しています。ところが1990年代以降,個別の生徒にちゃんと手をかけろとか,質の高い授業たとえば暗記ではなく考えさせる授業をやれとか,教員がやっている仕事が質的に変わってきています。つまり,従来の教員と児童生徒数の比では合わないような事態になってきているんです。

 そして,給特法の改正については,これまで教員の善意の仕事として表に出てなかったことを一旦表に出して,そのうえで,人をどれだけ増やすべきなのか,仕事をどう減らしていくのかという具体的な議論ができれば,改革が進んでいくと思います。教員にお金をもっとくれということではなくて,ただ働きの無定量の残業が存在するということを表に出していくことが,まずは必要なんです。

 

【藤田】

 1990年代以降,西欧諸国を中心に世界的に,学級規模の縮小が進んできています。15人学級とか20人学級が多くなってきています。日本はそれをやってこなかったわけですよね。

 教育というのは労働集約型の産業ですので,手がかかるんです。だから,新しい課題が生じてそれに対応するために,欧米諸国では学級規模を縮小してきたんです。日本では,財務省は,子どもの数が減ってきているんだからそれに応じて予算を減らすべきと主張してきました。その態度を基本的に変えてもらわなければ,問題は解決しません。

 教職というのはとても包括的な職業でして,業務を限定することが難しい仕事です。介護関係の仕事も同様です。日本では子どもが学校を離れていても,何かあった場合には教員が対応するというようなカルチャーがあります。

 無限定性や包括性といった特質を変えることができるかどうか,大きな課題です。教員に負担をかけつづけるというスタンスを見直して,最善の改善策が何なのかということを検討していくべきだと思います。

 

【佐藤】

 教員の過労の状況には,さまざまな要素が絡んでいますから,簡単な解決方法があるわけではありません。しかし,変形労働時間制を導入すると,現状を容認してそれを固定化させることにもなります。

 そして,いま定額働かせ放題となっているこの実態について,超過勤務の手当てを保障するといった具体的な方向性が示されるべきです。その意味で,給特法の見直しは大前提です。

 

【山口】

 学校現場が忙しくなってきたのは,何よりも説明責任を果たすということで,計画を立てて,記録をとって,最後にまとめるといった作業の影響が,大きいです。

 一時間ごとに授業の記録を残せといった書類づくりが,2000年代に入ってから増えてきました。何のためにその書類がいるのかといえば,何か訴訟が起きたときの対応といったように,教育委員会のために書類をつくっています。授業や教材研究であれば,すすんでやります。

 つまり,少子化と関連づけるべきではありません。先生方に求める仕事が変わってきているのに,その時間も確保せずに,教育課程を変えて新しい教科をつくったりしている。

 仕事を減らしたり,人を増やしたりしないと,解決できません。法律のレベルから抜本的な改革をしていかないと,このままになってしまうと思います。

 

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■会見動画 @厚生労働省記者クラブ

【会見参加者】

 

「全国過労死を考える家族の会」会員

 ・工藤 祥子(過労死遺族)

 ・山口 俊哉(過労死遺族)

「給特法改正を求める署名」呼びかけ人

 ・斉藤 ひでみ(現職教員)

「学校の働き方を考える教育学者の会」呼びかけ人・賛同人

 ・藤田 英典(共栄大学・教授)

 ・広田 照幸(日本大学・教授)

 ・内田  良 (名古屋大学・准教授) 

 

▼厚労省会見01:教育学者の訴え

“法律と現実との間に大きな乖離

【藤田】

 基本的には日本の教師というのは,この20年ほどの間で,さまざまな新しい業務が増えてきております。

 IT関連,英語,道徳教育,アクティブラーニングなど,いろいろと対応すべきことが増えています。それに加えて,保護者対応や,学校内外での子どもの安全確保,給食の指導など,教育の一環としておこなうべきことが増えています。

 教職には,聖職者論というのがあります。この考え方は,教育学ではあまり言われないんですけれども,世間一般や政治のなかでは,教師は献身的に尽くして当たり前と言われることが多いです。それは残業ゼロであっても,子どものために資質能力を絶えず向上するように,献身的に頑張らなければならないということ。

 とくに日本では,学校内の学びや生活においてだけでなく,学校を離れた場においても教師がさまざまなかたちで子どもたちのケアをする,さらには保護者への対応もおこなうというようなことがあります。さらには企業一般と同じように,説明責任やコンプライアンスといったことも,厳しく要求されるようになってきています。

 構造的に業務がどんどんと増えていて,しかも残業をしないわけにはいかない。それを支えているのが,一つに給特法であり,もう一つに教員定数法の改善がなされていないということです。

 教育学では,聖職者論にくわえて,専門職論と労働者論というのがあります。とくに労働者論については,労働者としての権利が十分には保障されていないという印象をもっています。教員の使命感と誇りにしっかりと対応していくべきで,中教審の変形労働時間制では問題の本質的な改善にはならないと思います。

 

【広田】

 公立学校の先生には残業代が出ないという法律が1971年につくられました。それが現実には,だんだんと仕事が増えていって,法律と現実との間に大きな乖離ができてしまったわけです。

 残業を命じないということになってしますが,実際には残業をせざるを得ない。長時間労働が蔓延していて,なのに過労死の責任は生じないという状況です。

 教員をしっかり増やしてもらうか,残業を残業と認めたうえで時間外労働を減らしていく具体的な動きをつくってもらうか,それができないままに,いまに至っています。

 だから中教審に期待していたのですが,中教審ではいまままでの枠組みの延長上でしか議論をしていないので,抜本的な解決にはいきません。このようななか,斉藤ひでみ先生も声をあげ,私たちも同様に訴えたいと思っています。

 

【内田】

 学校現場の先生方は,教育者という認識が先行していて,労働者という認識が希薄なんです。

 「献身的教師」というのが学校文化に根づいているのですが,その逆が「サラリーマン教師」です。これは時間に厳格で,給料もちゃんともらうという意味です。「サラリーマン教師」の働き方は,学校では否定されてきました。時間に厳密に働きそれに応じて残業代をもらうというよりも,ただ働きで子どものために尽くすというのが学校です。

 だからこそ厚労省の皆様からは,教員は教育者である前に労働者なんだというメッセージを発信していただけると,ありがたいです。

 

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▼厚労省会見02:質疑 業務のアウトソーシングが進まないのはなぜなのか?

“時間外労働が発生しても,教員を使えばゼロ円で済む”

【記者】

 教育の質,つまり保護者や子どもに提供するサービスのレベルをどこに設定するか。もっと高いほうがよいのか,もっと低くてもよいのか。こうした状況は,法律的にできないのか,教員がそれをしたくないのか,学校現場はそれを許さない環境にあるのか,そのいずれでしょうか。

 

【広田】

 アウトソーシングについては,カウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど,外部に切り出していくということはおこなわれていますが,学校教育全体のなかでは,それほど大きな業務の部分を担当しているわけではありません。教員はこれまで多面的に仕事をしてきていて,アウトソーシングできうる部分というのが,いまのところそれほど多くないという状況です。

 

【記者】

 業務の切り出しに,学校が慣れていないということでしょうか。

 

【広田】

 切り出したときに,子どもに関する情報を共有したりするために,また一仕事増えたりするということもあります。アウトソーシングで,いろんな業務が外に出て行っているわけではないんです。いま,中教審はその切り出しを進めなさいと言っているところです。

 サービスのレベルについては,この20年,どんどんと要求水準があがってきたんですよ。一人ひとりの子どもの学習を把握してやる気を出させるとか,一人ひとりの子どもの問題に対処して報告するとか,サービスのレベルが高くなり,求められるものがどんどん増えていききました。それにもかかわらず先生が増えないので,教員の自発的な残業に依存して学校が成り立ってきました。

 

【記者】

 求められるというのは,教育委員会から求められるということでしょうか。

 

【広田】

 教育委員会や文科省です。

 たとえば,不登校の子どもへの対応というのは1992年から現在に至るまで,文科省からの指示はどんどん細かくなって,教員は丁寧に対応するようになってきています。

 

【藤田】

 いじめ対策でいうと,法律が制定されて,各学校でアンケート調査をやったり面談をやったりしています。そういった業務がどんどんと増えてきたのが,この20年です。

 業務の切り出しについては,プライバシーや匿名性を確保しなければなりませんので,学校の外の人に任せておくわけにはいかないんですね。また,たとえば部活動では外部人材を活用している学校もありますが,財政面が課題です。

 そして,義務教育国庫負担金というのがあって,いま3分の1が国庫負担金として自治体に配分されていて,残り3分の2は,2005年から一般財源化されたんですね。その一般財源化された分について,全額使っているのは,たしか2016年頃の調査ですが,東京都と鳥取県だけです。他の自治体はそれを下回っています。何に使っているかというと,他の領域にまわしているか,一人の専任教員を減らして,非常勤を3人・4人にすれば,国からのいろいろな特化した要望に対応できるということが進んでいます。

 これと同じように,変形労働時間制は過労の状況を踏まえずに,お金をかけずに問題を処理しようとしているから,根本的な問題解決にはならないと考えます。

 

【記者】

 だから,国や教育委員会がそのレベルを下げれば,問題は解決するのではないでしょうか。

 

【広田】

 そうですね。授業だけやっていればよくて,他のことはやらなくていいよと学校に言ってくれたら。

 

【記者】

 私なんかは,それでいいと思うんですが… 不登校であればカウンセラーが対応すればよいし,教師の仕事ではないような気がします。定時が過ぎた後は,問い合わせに教師が対応する必要もないと思います。

 

【広田】

 だから外部の専門家をもっと増やそうという話はあるんですが,それ自体が予算のかかることなので,学校があれこれやってくれという話になっています。

 

【斉藤】

 学校現場にいる者として,アウトソーシングしたらそれでよいと思いますし,中教審の議論もいちおうそういう方向性を示しています。でも,これはうまくいかないだろうと思うんです。給特法のもとでは,いくら時間外労働が発生しても,教員を使えばゼロ円で済むということなんです。

 たとえば,大学に入学してからの奨学金の申し込みについて,これを高校3年生の5月くらいの時期に前もって申請できる制度がつくられました。高校の奨学金担当の先生に,その事務手続きをやってくださいという仕事が下りてきます。

 そのときに,これは教員の仕事ではない,となればよいのですが,結局は「誰かこの仕事をやってくれ」と言われます。このときに私たちを縛っているのが「献身性」です。生徒に関わることなのだから,いくらでもやるといのが正しい教員ということです。私はもうそういうところからは少し離れているので,「これは無理です」と言えることもありますが,誰かがそれを引き受けざるを得ない。そういった教員側の問題もあるでしょうし,仕事を安易に下ろしてくる側にも問題はある。

 いずれにしても,仕事が下りてきたときに,いくらでも働けてしまうといういまの制度は,非常に問題があります。残業代が生じるから,予算の範囲内でしか働かせない。仮に教員が働きたいと言っても,予算がないから無理ですというかたちで歯止めがかかる。その歯止めがはずされてしまったのが,給特法なんです。